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ヒモ願望

 収入のある女性に頼り、自らは何もしないで遊び暮らす男性を俗に「髪結いの亭主」と言う。「ヒモ」とも言うが、私はこの両者を分けて定義している(出たよ定義癖)。前者は自我が弱く社会的に能力が低いため、自らに生産性がないことから生産性の高い(生活力のある)女性に依存して生きている。その代わり、依存先である女性のことは大事にし、結構尻に敷かれている。

 一方「ヒモ」は一見『髪結いの亭主』と同様に見えるが、立派な自我と利己的な性質を持っていて依存先から如何に利益を得るかに拘っている。口先では優しげな言葉を言って女性を労るが、労力を割いて女性のために動くことは殆どない。女性の収入が下がることに敏感で、そのような事態にならないよう色々図るが、ダメとなったら沈没する船から鼠が逃げるより速く逃げ出す。定型パターンに当てはまらない例は多々あるだろうが、個人的な大体の定義としてはこんなところである。

 世間の狭い私が見た限りでは、『髪結いの亭主』や『ヒモ』にしがみつかれるのは、夜の仕事をしている女性や看護師さん、女性医師のように収入は多いがそれだけ激務、且つ自己犠牲精神があって面倒見が良いという人が多い。弁護士や検事、警察官といった職業の女性にはあまり付かないのである。夜のお仕事と言うと聞こえは悪いが、男性の愚痴を聞いて慰めたり励ましたりする場面も多かろうから、「面倒見が良い母性に溢れた女性」が依存先になることが多いと考えられる。

 弁護士や検事、警察官に自衛官は(例外はあるが)、概ね高い倫理観と使命感に裏打ちされて男性社会で泳ぐ女性である。従って甘えについては厳しく、自らが甘えることもない代わりに他人の甘え(要保護者である子供やお年寄り、心身の障碍を持つ社会的弱者からのヘルプ要請は含まない)にも厳しい。働く能力はあるのに働きたくないから養って♪という男性に対しては峻厳な態度を以て臨むのではないかと思う。

 私は絶対にヒモや髪結いの亭主を飼わないタイプである。社会的弱者ではない、いい歳こいた男性に甘えられると鳥肌が立つし、度が過ぎれば鉄拳制裁する。百歩譲って家事を一手に引き受けてこなすと言う髪結いの亭主なら一考の余地はあるが、万一私が妊娠・出産や長期の療養を要する状態となった時に共倒れになるので、やっぱり積極的に飼う気にはなれない。ヒモに至っては撲滅対象と認識し、果敢に苛烈に攻撃する対象と見なす。

 こういう性格であることを知らない他課の職員(仮にX氏とする)が、よりにもよって食事中の私に自らのヒモ願望を打ち明けてきた。前提として、彼は仕事ができない残念な職員である。「最近婚活しているのだけど、結婚してもずっと働き続けて、僕の稼ぎは全額僕の小遣いにしてくれて、家事も全部奥さんがやって僕を立ててくれて僕の趣味(AKB48の追っかけ)を応援してくれて、嫁姑問題は上手くこなしてくれて、子供は2人男女を生んで育ててくれて、子供の学費もしっかり用意してくれる人がいいんだけど、どっかにいませんかぁ?」

 一瞬でキレた。「オマエにそこまでして養う価値や魅力があるのか?!オマエが欲しいのは宿主だろ!そんなアホタレのお子ちゃまのへたれの甲斐性なしのすっとこどっこいの兵六玉をわざわざ寄生させたい女性がいるか!!いたら絶滅危惧種リストのトップじゃ!!てか、こんな寄生虫みたいな野郎は生きている価値がないから、今すぐ悔い改めるか腹掻っ切って地獄に堕ちろ!!一生血の池から出て来んな!!」

 普段被っている餌の要らない猫を全て脱いだ私の本性を見たX氏は死ぬ程びびった。真っ青になって口をぱくぱくさせ、スプーンを取り落として派手な音を立てた。うるせーな……。「まだ罵倒されたいんならそこに座ってれば?目の前にいるだけで怒りが収まらないんだけど!」と久々に兇悪至極な目付きで睨め付け、追っ払った。折角の麻婆豆腐が不味くなったじゃないか……。

 支配人と女性従業員に慰め(宥め?)られて食事を終え、事務所に戻るとM女史が駆け付けてきた。「先程はうちのXが大変申し訳ございません!とんだ失礼を申し上げたとのことで、ただ今当課で締め上げております」Xめ、猫舌の私がゆっくり食べている間に事務所に戻って愚痴ったな……。私だけでなく、性別関係なく締め上げられればちっとは現実が見えるだろう。全く、何処に出しても恥ずかしい奴だ……。

 「あんな優しげな風情なのに罵倒の限りを尽くされた、騙された!」と騒いだそうだが、それは人を見る目がない自分が悪い。M女史にこってりぎっちり絞られて塩をかけられた蛞蝓みたいになったらしいが、私的には萎びた蛞蝓より更に進化して化石になってもらいたい。