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【SS】うっかり、ナンパ。

「そこの、ちゃんねえ。茶ぁ、しばかへん? ……なんつって、な」

 ざわめく街の中。偶然、目の前を歩いている2人が、同時に振り向いた。

 一瞬の沈黙。

「あらまぁ! イケメンに、ナンパされちゃったぁ!」

 向かって左側の女性が、高い声をあげた。

『なんだ。成功したのか?』

 タブレット携帯電話が、するりと落ちた。右側の女性が拾ってくれて、笑顔で差し出す。……どこかで見たような……?

 俺、志賀由也(しが ゆうや)23歳は、会釈して声に返事する。

「あぁ、冗談話が現実になった。ネットで動画サーフィンしているなら、すぐ来い。お姉さま2人だ」

『なんだとぉ!? すぐ準備して行くよ。いつもの店で良いか?』

「あぁ。さっさと来い。今すぐ来い。即座に来い!」

 通話を切って、2人に軽はずみな偶然を謝罪する。

「俺……いえ、僕1人では荷が勝ちすぎるので、同級生を呼びました。ここから少々歩きますが、ご同行頂けますか?」

 2人は顔を見合わせて。こんな、おばちゃんで良ければ。と、行きつけの喫茶店に向かう。

   *   *   *   

 喫茶店『鳩ぽっぽ』。

 木目を活かして、濃い茶色で統一された内装。カウンター7席。4人掛けテーブル5席。6人掛け2席。間を縫って2人掛け5席。

 目の邪魔にならない間接照明。コポコポと聞こえる、コーヒーを淹れるサイフォンの音。耳障りにならないBGM は、ジャズ。所々に観葉植物、手作りだろう動物のぬいぐるみが飾られて、昭和レトロな雰囲気が気に入っている。たまたま入って発掘。

 店主が、伝書鳩を育てているらしいが見たことは無い。

 カウンター内の店主に会釈して、いつも座っている角の4人掛け席に座る。

「いらっしゃいませ。女性と、いらっしゃるとは珍しい」

「ナンパしました。相方が、後から来ます」

 お冷やと、お絞りを運んできた女性店員だ。店主の娘らしく、気さくに声を掛けてくれる。

 飲み物を頼んだ後、勢い良く木目の扉が開いた。来客を知らせるベルが鳴り響く。

「どぉも、初めまして! 佐藤光(さとう ひかる)。ぴっちぴちの、23歳、フリーターです! 宜しくお願いします!」

 駆け寄ってきて、ぴしっと敬礼してから俺の隣に座って。女性2人を、まじまじ見て目を丸くした。凝固、と言った方が適切だろう。

〈続〉